ソフツー 鍾勝雄|多国籍組織で成功!クラウド型コールセンターシステムとAI電話自動応答・取り次ぎサービスで社会課題を解決

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年08月に行われた取材時点のものです。

一人ひとりの能力や個性を自社の強みとして活かす。従業員の幸せが生み出す社会発展への貢献


コールセンター業界が長年抱えてきた問題として、人手不足による採用難や業務効率の悪化などがあげられます。また、さまざまな企業でオフィス電話の煩わしい悩みが解消できないなど、ビジネス上の電話に関する課題について議論が生じてきました。

こうした状況下で、AI技術と電話を組み合わせた多彩なサービスを展開し、コールセンターをはじめとするあらゆる業界の課題を解決に導き注目を集めているのがソフツーです。

同社は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、 途切れることのない研究開発をし、IT技術で社会の発展に貢献」を企業理念に掲げ、クラウド型コールセンターシステム「BlueBean」、AI電話自動応答・取り次ぎサービス「ミライAI」などの開発・販売を行っています。

今回は代表取締役を務める鍾さんの起業までの経緯をはじめ、最先端のIP電話の世界や多国籍で構成される組織の運営法について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

鍾 勝雄(しょう かつお)
株式会社ソフツー 代表取締役
1978年生まれ。中国出身。出身国である中国でエンジニアとしてのキャリアを積んだ後に来日し、派遣エンジニアとして活動。2001年に大学卒業後、米国通信会社の中国支社に入社し、SE、CTOを経て5年にわたりIP電話システム開発を行う。2006年にITエンジニアとして来日後、2008年(株)ソフツーを設立し取締役に着任し、クラウド型のコールセンターシステムの開発に注力。2018年には現職である代表取締役に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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中国でエンジニアとして活躍。2006年に来日し、言葉の壁を超えながら起業

大久保:鍾さんは中国福建省のご出身で、本国でエンジニアとしてご活躍されていらっしゃったと伺っています。

:2006年に来日するまで、米通信会社の子会社エンジニアとしてキャリアを積んでいます。日本でも当初は派遣エンジニアとして2年ほど働いたのちに独立し、2008年7月にソフツーを設立しました。

大久保:日本は他国に比べると、起業する際の手続きが困難といわれています。まして鍾さんは中国の方ですので、言葉の壁も含めてあらゆる面で大変だったのではないでしょうか?

:確かに苦労がなかったわけではありませんが、当時は中国のほうが起業までの困難が桁違いでした(苦笑)。

実は私は本国で2回起業を経験しています。1回目はちょうどインターネットバブルと呼ばれるバブル景気が発生していた大学時代でしたが、集団起業だったので手続きが軽減できました。

2回目の起業はすべての手続きを自分で行いましたので、これが本当に苦労の連続で。書類提出のために役所に行くと、その都度足りない書類などを指摘され、かき集めて再訪するとまた指摘される。この繰り返しだけで数ヶ月かかりました。

一方、日本での起業は比較的スムーズだったんです。当時は日本語がまともに話せなかったものの、中国語が堪能な行政書士の知り合いにサポートしていただきながら進めたことも功を奏しました。

クラウド型コールセンターシステムの成功を活かし、「ミライAI」をリリース

大久保:御社はクラウド型コールセンターシステムを進化させながら、徐々に多角的な展開で発展をとげてきました。サービスが軌道に乗った転機があればお教えください。

:2008年の創業から約2年ほど経過した頃、奇しくもGoogleがクラウドの概念を打ち出したことが市場拡大の後押しとなりました。

弊社はIP電話の技術をベースとしたクラウドサービスで事業を始めましたが、当初はIPやクラウドが未知の領域だったため「IP電話の品質は大丈夫だろうか?」といったように二の足を踏む方が少なくなかったんです。

徹底してプロダクトの磨き込みを行いましたし、私としては「素晴らしいサービスだ!」と自信をもっていたものの、なかなか売れなかったんですね。

ところがGoogle Cloudの登場を機に、徐々にクラウドサービスを求める方が増えてきました。創業時から自社でSEO対策を行い、公式HPには「クラウド」や関連ワードを多く盛り込んでいたため、少しずつアクセスが増え、結果として顧客も増加しましたね。

大久保:加えて、コールセンターの人手不足問題の解決策としても効果的という強みをもっていらっしゃいますので、さらに注目を集めたところもあるんでしょうね。

:おっしゃる通りです。

そうした過程を経て、常に業界課題と向き合ってきた弊社の理念のもと、2023年2月に正式リリースしたのがAI電話自動応答・取り次ぎサービス「ミライAI」です。

大久保:「ミライAI」の着想はコールセンターの課題解決からスタートし、開発を進めるなかでコンセプトや機能の見直しを行ったと伺っています。詳しくお聞かせください。

:弊社ではコロナ禍の約2年前にリモートワークを開始したのですが、顧客からの電話応対で混乱が生じてしまい、結果的に誰も対応できなかったお客様のお電話が多数発生してしまったんです。

それまで「ミライAI」は人材確保が困難になっているコールセンター問題の解消を目的に、機能をブラッシュアップしながら開発を進めていましたが、この社内の問題が発生してから方針転換しました。

「AIを導入してオフィス電話の諸問題に対応しよう」という着眼点で、代表電話の自動応答と取り次ぎにフォーカスしながらプロダクトを作り込んで完成させました。

大久保:創業手帳の読者の方々にもマッチする素晴らしいサービスですね。

:ありがとうございます。ぜひご活用いただけたらうれしいです。

「ミライAI」Googleの音声技術をベースに独自開発したAI技術によりお客様の声を認識し、電話の対応を行います。

自動対応をはじめ、担当者名をヒアリングし取り次ぎ対応を行ったり、折り返しになった場合は会話終了後に会話内容を要約してメールアドレスやチャットシステムへの送信が可能です。

ほかにも多彩な機能を搭載しています。2023年8月から無料プランをリリースする予定ですので、まずは一度お試しください。

多国籍で構成された組織を成功させる秘訣は「一人ひとりの能力や個性を活かす」

大久保:御社を構成する従業員は多国籍で、さまざまな国から集まったメンバーが組織を活性化させながら業務に取り組んでいらっしゃると伺っています。

:事業の成長に合わせて増員していったのですが、現在では約10カ国の従業員が弊社を支えてくれています。

大久保:それぞれ異なる文化や価値観をもつ従業員のモチベーションを向上させ、盤石な組織を構築するための秘訣についてお聞かせください。

異文化や異文学を受け入れながら、一人ひとりの能力や個性を自社の強みとして活かすことが大切ではないでしょうか。

弊社でも当初はお互いの考え方や方法論のすり合わせ、共存するための方向性を示すのに苦労しました。「同じ方向に向かうためには経営哲学が必要だ」と考え、私自身が経営セミナーに参加して得たメソッドを取り入れてみたのですが、まったくうまくいかなかったんですね(苦笑)。

こうした紆余曲折を経て「一人ひとりに向き合いながら、自社に合わせた哲学を構築しよう」という意識で、異文化・異文学を受け入れ積極的に取り組んだ結果、組織を成長させることができました。

大久保:素晴らしいですね。「言うは易く行うは難し」で、実現するのが非常に難しい領域だと思います。コミュニケーションを円滑にするために取り入れた方法はありますか?

:異文化交流の取り組みとして、3人をランダムに組み合わせ、異なる国の従業員同士で一緒にランチをするという会社支援の企画を実施しています。

実はこの交流会は、入社してすぐの新入社員からの提案で実現した企画なんです。

入社して間もなく「日本国籍と外国籍のメンバー同士の会話が少ないと感じる」と打ち明けられ、「異文化コミュニケーションをやってみたらどうだろうか?」と提言してくれたんですね。「ぜひ企画してほしい」とお願いしたところ、企画書を提出してくれました。

早速実施してみると、ものすごく盛り上がったんです。

雑談も含めて色々な話をしてもらうことで、今までお互いに知らなかったそれぞれのバックボーンまで理解できるようになり、社内全体のコミュニケーションがより良くなりました。現在も継続して開催しています。

国が異なれば、それぞれの正解も変わる。業務も人間関係も臨機応変な調整が重要

大久保:先ほど多国籍で構成された組織を活性化させるための秘訣や方法をお伺いしましたが、従業員同士の理解が進み、コミュニケーションが円滑になると業績向上にもつながってくるのではないでしょうか?

:おっしゃる通り、コミュニケーションを取ることでお互いに刺激を受けて「良い仕事をしよう」という意識が高まるなど、素晴らしいシナジー効果が生まれています。

個人的な意見として、私は「国を問わず、どんな人でも素晴らしい考えを持ち、努力することができる」と思っています。

そして国が異なれば、それぞれの正解も変わってきますので「どちらかが絶対に正しいということはない」んですね。

日本ではAという方法が望ましいとされているけれど、中国ではBが求められる。でも、他の国では違うかもしれない。こうしたケースが数えきれないほど存在します。

つまり、どちらが正しいかわからないけれど、業務も人間関係も深めていく必要があるんです。だからこそ、少しずつ進めながら、臨機応変に調整していくことが非常に大事ではないかなと。それぞれの動きをみながら変えていく思い切りが鍵になってきますね。

大久保:鍾さんのお考えに感服します。まさにおっしゃる通りですね。その理念や姿勢は企業規模を問わず、日本企業が海外展開をする際にもヒントになりますね。

:海外現地法人の人員構成がすべて日本人だと、現地での事業が頓挫してしまうケースが圧倒的に多いんですね。

なぜなら「日本のやり方はこうだから」と現地の方々に押し付けて、無理やり通そうとしてしまうからです。国によって常識も方法も異なるのに、これではうまくいくわけがないんですよ。

海外現地法人を成功させるためには、できる限り日本人と他国籍のメンバーを揃え、そこに現地出身者を加えること。そのうえで、少しずつ業務を進めながら調整するというスタンスを徹底している会社が飛躍しています。

それぞれの個性や方法を活かし、伸ばしながら、うまくいかない面は検証して修正するといったことができないと難しいですね。やはり一人ひとりときちんと向き合う意識が不可欠ではないでしょうか。

電話の利便性を科学する。今後も目指すのは、あらゆる業界が抱える課題の解決

大久保:今後の展望についてお聞かせください。

:弊社では常に、電話の利便性を科学しながらサービスを提供していきたいと考えています。

まずオフィス電話については、テクノロジーを活用することで煩わしさを極力なくし、人間同士で話すときは「必要なときに、必要なだけ」という状態にしていきたいです。

その際に用件がきちんと伝わるように、前段階で精査するクオリティを上げ、その工程を経てつなげるというサービスを構想しています。新しいオフィス電話のスタンダードをつくっていきたいです。

それから人材不足問題を抱えるあらゆる業界に対し、音声サービスを提供することで解決を目指しています。

また、コロナ明けで海外からのインバウンドが戻ってきたことに伴い、コミュニケーション問題が取り沙汰されています。この課題に対し、ChatGPTと音声を通すことで、異なる言語同士のやりとりがサポートできるのではないかと構想中です。ぜひ積極的に取り組んでいきたいですね。

AIの特性と強みを活かす意識は、現代社会で事業を成功させるために不可欠

大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。

:弊社ではAIを活用した事業を展開していますが、AIが世の中に登場してから「人間の仕事が奪われるのではないか?」との論調が目立つようになりました。

確かに代替可能な仕事はAIが行うようになり、環境が大きく変化していくと思いますが、一方で私たち人間にしか担うことができない領域がたくさんあります。

AIと共存するうえで最も大切なのは「人間とAIのそれぞれの素晴らしさに着目し、AIにサポートしてもらいながら活用していく」ことではないでしょうか。

今後間違いなく、今以上にAIとともに歩む世界はやってきます。

ぜひ起業家の皆さんには、AIの特性と強みを活かしながら、上手にビジネスを進めていっていただきたいです。それが事業の成功につながるのではないかと思っています。

大久保写真大久保の感想

今でこそ中国から日本に来る人は増えている。しかし鍾さんが中国から日本に渡り起業した当時は、中国が今ほど経済発展していなかった時代だ。中国はまだ国を開いたばかり。物価も桁違いで、中国から海外に行くこと自体が珍しかった。そんな中で鍾さんは日本に飛び込んでビジネスを作り上げた。

当時の話を語る鍾さんは穏やかで丁寧だが、当初は言葉も上手でない中での日本での起業は色々な試行錯誤があった。

そんな鍾さんの起業を通して、日本人の起業家にむけてヒントになると思った点がある。それは鍾さんが外国出身であるがゆえに「多国籍かつテクノロジーベースの組織にせざるを得なかった」ということだ。せざるを得なかったというのがポイントだ。

日本の会社が外国人を取り入れたり、逆に海外に進出することは、メーカーとゲーム業界以外は苦手としている。一方で日本はこれから人口減少していくので、選択するかしないかは別として海外人材の取り入れと海外進出は考えざるを得ない。

その際にポイントになるのが、鍾さんが言うように「個人個人を見る」ということかもしれない。

例えば「中国人とは」「日本人とは」「アフリカ人とは」という主語が大きい言葉だと本質を掴みにくくなる。中国と言っても鍾さんの世代と今の中国人では気質が違うし、福建省と大連でも気質が違う。もっというと個人でも全く違うのだが、主語が大きい言葉でくくってしまうと本質が見えなくなる面がある。

「人を見よ」という鍾さんの姿勢は、彼が日本の地に移住して事業を展開し、日本に受け入れられながらビジネスを成功させることができた秘訣だろうし、また日本人が海外と付き合う場合の秘訣かもしれない。

それからテクノロジーベースでいうと、新しい便利な技術は、言葉や習慣を超えて人を結びつける力があると思う。特にITテクノロジーは国によって色があるにせよ、よりフラットで自由なコミュニケーションを実現しやすい。

今後、日本の会社が海外の力を取り込むために鍾さんから学べる点としては

・個を見る(主語を大きくしない)
・技術を積極的に使う

ということが大事になりそうだ。

そんなことを感じた鍾さんの取材でした。

冊子版創業手帳では、新しい分野を開拓する起業家のインタビューを多数掲載しています。無料で届きますので、web版と合わせてご覧ください。
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(取材協力: 株式会社ソフツー 代表取締役 鍾 勝雄
(編集: 創業手帳編集部)



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